こんにちは。
飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。
私が病院で働いていた頃の話です。
職場では製薬会社による薬の説明会というものがちょくちょく開催されていました。
どんなものかというと、仕事の後に会議室に集まって、製薬会社が用意した立派なお弁当を食べながら、営業(MRと呼ぶようですね)がパワーポイントを使って精神科治療薬の説明をするのに耳を傾けるのです。
もう少し大きな規模になると、学会のランチョンセミナー(参加者は無料で製薬会社が用意した素敵なお弁当を食べながら、薬の説明を兼ねた講師の先生の話を聞くことができます)やホテルの宴会場での研究会(参加者は研究テーマにそった演者の発表を聞く前や後に、製薬会社の担当者から薬の説明を受け、その後大抵はビュッフェ形式の夕食を食べ、製薬会社が用意したタクシーで家路につくことにができます)というものもありました。
薬を売り出すために膨大なお金が使われているんだなぁというのが当時の率直な感想です。そしてその売り出しにかかったお金は薬の出荷が増えると、その売り上げによってチャラになるわけです。
そういうわけで、診断が出される数と薬が出荷される数は親密ともいえるつながりがあります。薬を売る方としては診断が増えることは大変に喜ばしいことです。
一つの例として以前、SSRIが市場に出たのと、「うつは心の風邪」という啓発活動がされて、従来なら見過ごされていた軽いうつでも受診を促して治療(薬の投与)につなごうとした動きとは無関係とはいえないといわれています。SSRIは入院が必要ではない「軽症のうつ患者」用の薬であったため、市場に埋もれているはずの大勢の軽症のうつ病患者を掘り起こして診断につなげる必要がありました。
そして今、なんといっても流行りなのは、さまざまな著名人がカミングアウトしたことでも話題になっているASD(自閉症スペクトラム症)、いわゆる発達障害です。
うつとSSRIの関係になぞらえてみると、診断が出されるのは治療(薬)があるからに違いありません。実際、ここ10年あまりの間にストラテラやコンサータ、インチュニブがオトナのADHD(乱暴にくくってしまうとASDの仲間)に処方できるようになりました。
私が贅沢なお弁当を食べながらみた製薬会社のADHDの治療薬宣伝ビデオはこんな具合です。
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主人公は40代の既婚女性。仕事をしながらの忙しい毎日の中でどうしても家事が回らない、仕事でもミスが頻発するという悩みを持っています。どのくらい家事ができないかというと、洗濯物を干しても取り込めず干しっぱなし、夕食が作れなかったり、部屋も散らかったまま。会社でも重要な書類を忘れて上司に怒られてしまいます。夫はだらしない妻に嫌気がさし、離婚。
こんな自分を責めて精神科受診した主人公は主治医に診断を受け、ADHDの治療薬を飲むようになりました。そうしたら、だんだんと家のことが回るようになり、自信がついた主人公はついには事業を興して自分らしい働き方を手に入れられるようになるのです。
私がこの宣伝ビデオをみた最初の感想は「夫、離婚する前に家事手伝えよ」といったところでしたが、でもよく見ると、このビデオには重要なメッセージが含まれています。それは宣伝戦略といってもいいかもしれません。
すなわち、ADHDの治療薬のターゲットは家庭や仕事、または子育てや介護などで人生で一番忙しい時期にいる40代女性である、ということです。なんといってもこういう毎日が戦争状態の40代女性は大勢いて、薬の消費者層として考えるととても厚く手堅いところです。
それを大変だね、と共感的にサポートしたり、家事の負担をどうやって減らしていけるか工夫するよりも(実際そのあたりは宣伝ビデオでふれられてはいませんでした)、ADHDと診断してストラテラなりコンサータなりを処方する、という力強いともいえるメッセージがありました。
このような、消費者層を広げるという戦略は、SSRIが入院を必要とする重症のうつ患者ではなくて、軽症のうつ患者に対象のすそ野を広げて沢山の出荷を遂げたあのやり方と同じです。
私は精神科治療薬すべてに懐疑的なわけではありません。統合失調症や双極性障害Ⅰ型、重度のうつ病などの、時には入院を必要とする患者さんには薬が大変助けになる時があります。
ただ、程度問題ということです。
アメリカで爆発的に売れたSSRIの仲間であるプロザックという薬は今は発売中止になっています。プロザックの副作用だといわれている「自殺」が問題になったからです。
そうやっていろいろ考えていると、なんというか、もろ手をあげて薬を服用したいという気持ちになれない私がいるのです。
●そもそも精神科治療薬について考えるきっかけになった本☞『ヒーリー精神科治療薬ガイド』
ではまた。
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